大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和48年(オ)1074号 判決

ソヴィエト社会主義共和国連邦モスクワ市キエフ通一六の二八

上告人

ニコライ・フヨードロヴィチ・サホブスキー

同連邦ヤロスラフ州ボリシエセロ区バブコヴォ村

上告人

ミハイル・アレクサンドロヴィチ・サホブスキー

同連邦ウドムルトソヴィエト社会主義共和国イジエフスク市

上告人

イワン・アレクサンドロヴィチ・サホブスキー

同連邦タツタール自治ソヴィエト社会主義共和国

ゼレノトリスク市レーニン通五一の二四

上告人

グリゴリー・アレクサンドロヴィチ・サホブスキー

同連邦 同共和国ライシェヴォ区ストルビシチ村

上告人

ヴェラ・アレクサンドロヴィナ・インツイーナ

右五名訴訟代理人

中嶋徹

神戸市生田区山本通三丁目七番地の二四

被上告人

ハンス・クノフリー

神戸市生田区北野町三丁目四二番地の九

被上告人

ビクター・ベア

右両名訴訟代理人

元原利文

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人中嶋徹の上告理由について。

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、本件自筆証書による遺言を有効と解した原審の判断は正当であつて、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(坂本吉勝 関根小郷 江里口清雄 高辻正己)

上告代理人中嶋徹の上告理由

原判決は法律の解釈を誤つている。

一、民法は遺言に関する方式として、冒頭に「遺言はこの法律に定める方式に従わなければ、これをすることができない」(九六〇条)という明文を掲げ、さらに自筆証書遺言の方式として「遺言書がその全文、日附及び氏名を自書し、これに印をおさなければならない」(九六八条Ⅰ項)と規定している。

近代遺言法は方式を重視し、我国だけでなく、どの国の法律も、遺言を最も厳格な要式行為としているようである。

二、ところで本件遺言書と題する書面に押印がないことは争いがないところであるから、右遺言書は民法所定の方式を備えておらず、法律上無効なものである。

しかるに原審は、「文書の作成者を表示する方法として署名押印することは、我が国の一般的な慣行であり……右慣行になじまない者に対しては、この規定を適用すべき実質的根拠はない」とし、亡サホブ・ケイコが「日常の生活もまたヨーロッパの様式に従つていたことが認められるから」といつて押印を欠く遺言書を有効とした。

三、しかし右認定は明文に反し、且つ本件につき原審のように要式性を緩和すべき特別の理由はないのみならず、本件の如き国際的反響をよんだ事件で、日本の裁判所が明文に反する認定をした事は国際信用にもかゝわる。

よつて法治国家の面目のためにも原判決の破毀を求める。     以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例